1995 年の兵庫県南部地震では多くの歴史的建造物にも被害が発生。何世代にも渡って受け継がれてきた民家・町屋、社寺仏閣や教会などの内でも、特に法的な保全措置の裏付けのない「未指定」の歴史的建造物は、その多くが保護の手が加えられることなく、解体除却された。
一般に我が国の「未指定文化財」は長年に渡って十分な維持保全がなされずに、傷むままに放置されているのが実情である。このために、本来は十分な構造強度を有しているにも関わらず、今回のような突発事態に際して、実力が発揮できずに大きな被害を発生したものが多かった。かつてのように適切な維持保全がなされてさえおれば、被害は大幅に軽減できたと考えられているのである。
このような事態を教訓として、震災の翌年、歴史的建造物の「危機管理」と「修復保全」ならびに「有効再活用」を支援しうる「登録文化財制度」が導入された。しかし、英国の40万棟、米国カリフォルニア州の10万棟という数字と比べると、平成13年4月現在でまだ2100件と極めて少ない。更にこれらの修理や耐震的な保全措置もまだ殆ど手つかずの状況にある。再び大地震に遭遇した場合には、今回と同様に大規模な歴史資産の滅失が生じる危険性は依然として高い。
文化財-文化遺産は「国宝」や「重要文化財」あるいは「登録有形文化財」など、価値が既に認められたものだけを指すのではではない。たとえ、一般には知られていなくても、戦前の庶民の「住まい」や「町並み」など、ごく身近な建物やそれらが造りだす景観なども、実は大切な国民の共通財産として広く保全されるべきものである。
当研究室はこのような基本的な立場から、構造工学的な立場から歴史的建造物の修復保存に関する研究を行っているが、特に緊急事態下での文化財の救援と、これらに対応できる人材育成にも力を注いでいる。
> 提言 Heritage Open Day 文化遺産の日
◆歴史的建造物の保存修復
国重要文化財清水寺三重塔、同旧山邑家住宅、同同志社礼拝堂、同冷泉家住宅の他、平成7年兵庫県南部地震後の文化財建造物の復旧実績も多い。現在は国重要文化財本願寺御影堂、同清水寺仁王門、同深草山寳塔寺本堂などの修復保存のための研究調査を実施。復原建物の構造に関する研究としては平城宮朱雀門、同東院建物群、薬師寺大講堂などがある。
> 公表論文・業績等一覧_5.文化財修復関係
>> 歴史的建造物の保存修復(写真・図のみ)
◆歴史的建造物の震災復旧
>>平成7年兵庫県南部地震での歴史的建造物の震災復旧工事指導リスト
左 >> 国登録有形文化財・日本基督教団大阪教会
右 >> 国登録有形文化財・日本聖公会川口教会