■2007~2011年の研究調査概要

◆国重要文化財小川家(二條陣屋)の保存調査研究

◆滋賀県日野町曳山の構造調査研究

◆京都府祇園甲部歌舞練場の保存調査研究

◆永照寺本堂

◆三木市玉置家住宅

◆四日市別院

◆上久下発電所

◆水間寺厄除橋

■伝統的木造建築の耐震性に関する研究

平成7年兵庫県南部地震での犠牲者の9割は木造家屋の倒壊による圧死とされている。これら被災家屋の大部分は太平洋戦争末期の神戸大空襲で焼土となった後、戦後に建設されたもので、その構法や仕様は、洋風木造の考え方を大幅にとりいれた戦後の建築規則に基づいていた。従って、今回被災した戦後の木造住宅は、戦前まで一般的であった伝統木造建築とは構造的に相当異なったものが多かったといえる。

これと関連して、この震災後、日本の伝統木造建築には耐震性がないという議論が盛んであるが、果たしてこれは学術的に証明されているのだろうか? 昨今、木造住宅の耐用年数は25年と言われているが、何百年もの間、幾多の震災など自然災害に耐えた木造社寺建築は数え切れず、江戸時代に建てられた民家や町屋などの木造家屋も少なくない。

因みに我が国は、高温多湿で地震や台風にしばしば見舞われ、更に降雪も多いことなど、木造建築にとって極めて過酷な自然条件にある。このような環境で、何百年の風雪に耐えていくには、極めて高度な耐震技術の裏付けがなければありえないのではないか?もし日本の伝統的な木造建築が本当に耐震的に劣っていたのなら、度重なる激震に耐えて千年以上も残るはずがないからである。ただ、現代人はそのような工匠の英知を未だ十分に理解できていだけなのではないだろうか?

当研究室では、このような素朴な疑問に今取り組んでいる。そしてなぜ今回の地震で戦後の新しい木造建築に甚大な被害が発生したのか、その理由を伝統木造建築と比較検討しつつ、文化財建造物の保存修復事業にあわせて、系統的な学術調査や構造実験に力を入れている。

◆伝統木造建築の振動試験

実物架構の振動実験伝統的木造架構の耐震性を正確に評価するためは、土壁や貫の復原力特性や基礎や組物の滑り現象に及ぼす速度効果の解明が不可欠である。このような観点から、実物架構モデルを用いた振動実験を展開。
◇伝統木造建築の振動試験
茶室や土蔵などを振動台に載せて地震時の挙動を再現。写真は特に基礎を固定しない伝統工法による建物の地震時における挙動に着目した実験。試験体は茶室・土蔵共に職人による本格的な仕事で、茶室は国宝妙喜庵茶室(待庵)をモデルとしたもの。

◆組物を有する架構の載荷試験

柱や梁・桁及び貫で構成される軸部に組物を設置した架構モデルの水平載荷実験。各部エネルギー吸収機構の解明の他、実際の文化財建造物の振動観測結果との比較研究を開始。
◇組物を有する架構の載荷試験

◆劣化木材の保存処理と伝統的な建築素材の高耐久化に関する研究

腐朽劣化した木造古材、こけらや茅などの植物性屋根材、漆喰など土系材料の高耐久化を目的とした新素材の共同開発。特にシリコン素材に着目。

◆衝撃的な地震力を受ける各種架構の耐震安全性の評価に関する研究

オンライン実験や振動台実験を駆使して、直下型地震などの強い衝撃力に対する破壊性状や終局耐震性能に関する検討。20年以上に渡る継続的な研究テーマ

■歴史的建造物の保存修復

1995 年の兵庫県南部地震では多くの歴史的建造物にも被害が発生。何世代にも渡って受け継がれてきた民家・町屋、社寺仏閣や教会などの内でも、特に法的な保全措置の裏付けのない「未指定」の歴史的建造物は、その多くが保護の手が加えられることなく、解体除却された。

一般に我が国の「未指定文化財」は長年に渡って十分な維持保全がなされずに、傷むままに放置されているのが実情である。このために、本来は十分な構造強度を有しているにも関わらず、今回のような突発事態に際して、実力が発揮できずに大きな被害を発生したものが多かった。かつてのように適切な維持保全がなされてさえおれば、被害は大幅に軽減できたと考えられているのである。

このような事態を教訓として、震災の翌年、歴史的建造物の「危機管理」と「修復保全」ならびに「有効再活用」を支援しうる「登録文化財制度」が導入された。しかし、英国の40万棟、米国カリフォルニア州の10万棟という数字と比べると、平成13年4月現在でまだ2100件と極めて少ない。更にこれらの修理や耐震的な保全措置もまだ殆ど手つかずの状況にある。再び大地震に遭遇した場合には、今回と同様に大規模な歴史資産の滅失が生じる危険性は依然として高い。

文化財-文化遺産は「国宝」や「重要文化財」あるいは「登録有形文化財」など、価値が既に認められたものだけを指すのではではない。たとえ、一般には知られていなくても、戦前の庶民の「住まい」や「町並み」など、ごく身近な建物やそれらが造りだす景観なども、実は大切な国民の共通財産として広く保全されるべきものである。

当研究室はこのような基本的な立場から、構造工学的な立場から歴史的建造物の修復保存に関する研究を行っているが、特に緊急事態下での文化財の救援と、これらに対応できる人材育成にも力を注いでいる。

  > 提言 Heritage Open Day 文化遺産の日

◆歴史的建造物の保存修復

国重要文化財清水寺三重塔、同旧山邑家住宅、同同志社礼拝堂、同冷泉家住宅の他、平成7年兵庫県南部地震後の文化財建造物の復旧実績も多い。現在は国重要文化財本願寺御影堂、同清水寺仁王門、同深草山寳塔寺本堂などの修復保存のための研究調査を実施。復原建物の構造に関する研究としては平城宮朱雀門、同東院建物群、薬師寺大講堂などがある。

  > 公表論文・業績等一覧_5.文化財修復関係
 
         
  >> 歴史的建造物の保存修復(写真・図のみ)

◆歴史的建造物の震災復旧

>>平成7年兵庫県南部地震での歴史的建造物の震災復旧工事指導リスト
左 >> 国登録有形文化財・日本基督教団大阪教会
右 >> 国登録有形文化財・日本聖公会川口教会

■オンライン実験システム(オンライン地震応答載荷実験法)

従来の構造実験は単調載荷や繰返し載荷など単純な加力方法に基づいていた。これに対し当研究室では計算機で載荷装置を自動制御しながら複雑な地震時の破壊現象を再現する「オンライン実験システム」を全実験に適用。これにより各種の構造部材の実地震時の破壊過程を精度よく追跡しながら、耐震安全性終局設計に関する考察を展開。高精度の6自由度架構・2層立体架構の実験システムを実用化。2000年度からは磁気浮上型ファジー制御方式の高速オンラインシステムの開発に着手。20年以上に渡る継続的な研究テーマ。

>> オンライン実験システム

■物理工学的な研究手法

建築部材の強度評価に「X線回折法」や「磁気」などの物理工学的な手法を導入。更にこれらを利用した実構造物の現場応力測定や塑性歪の評価の他、繰返し荷重による高サイクル・低サイクル疲労損傷評価の研究を実施。磁気によるコンクリート中や水中の鋼部材の非接触非破壊応力測定や索条の動的応力測定も試みる。

>> 物理工学的な研究手法の紹介

■2013年

◆彦根城 楽々園 地震の間

◆豊中市 豊中自治会館(旧カフエーパウリスタ)

◆京都大学 学生集会所

◆豊岡市 豊岡市役所南別館(旧兵庫県農工銀行豊岡支店)

◆神戸市 北区 石峯寺 鎮守社

■2012年

◆豊郷町 四十九院地区

◆九度山 慈尊院 多宝塔

◆枚方市 労住まきのハイツ